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万引きの被害総額は年間8000億円超 従業員の犯行も? 一定の被害は諦めるしかないのか

現場をデータ化する

(本記事は当社CEO中村が『ITmediaビジネスオンライン(リテール大革命)』に寄稿し、2023年4月20日に掲載された連載記事を再編集したものになります。)


 日本のリアル産業を救う“エッジAI最前線” 
リテール業界はエッジAIを使ったIoTによって飛躍的に進化できる──当社CEOの中村はそう語る。当社では、エッジAIのカメラやセンサー、マイクによってさまざまな店舗の収益改善に取り組んできた。本連載ではエッジAIを使ったIoTでどう収益性改善にアプローチできるのか、大型百貨店やコンビニ、対面接客といったケースごとの事例を基にその方法を紹介する。


 本連載では「エッジAI×リテールビジネス」をテーマに、1回目はエッジAIのデータ分析を使ってリアル店舗を資産と捉える考え方について、2回目はそごう・西武をゲストに迎え、エッジAIでより顧客本意な店舗を実現する取り組みを紹介してきた。

過去の記事はこちらからご覧いただけます↓
【連載 第1回】人のいる全ての空間を「資産」に変える! リテール業界の飛躍を後押しするエッジAIとは
【連載 第2回】「百貨店の利用者は中高年ばかり」は思い込み? そごう・西武がAIカメラで発見した意外な利用客

 読者の中には、ホットなリテールメディア領域の話を聞きたいと思う人もいるかもしれないが、まずはその前段階で見落としがち、もはや諦めがちな「不正行為」の防止策についてエッジAIの観点で伝えていく。

 昔も今も万引き行為は後を絶たず、年間の被害総額は約8089億円に上る。それ以外にも盗撮や痴漢、器物破損など数多の不正・迷惑行為があり、最近では回転寿司チェーン店を中心に顧客の迷惑動画が拡散される事象が記憶に新しい。こうした行為は企業価値に影響を及ぼしている。

国内万引き被害総額万引きによる推定被害額(当社試算)

 そこで今回は、独自の不正行動検知技術を活用した防犯サービスを提供するCIA(広島市)の長岡秀樹社長をゲストに迎え、中村氏と対談。店舗側の負担となっていた防犯対策のコスト構造が変わり、攻めの投資につながる可能性を語った。

かさむ防犯コスト 一定の被害は「経費の一部」と諦める背景

中村: CIAではリテール店舗の防犯対策事業を行っていますが、まずはどのような会社か簡単にご紹介いただけますか。

長岡氏(以下、敬称略): 当社は、独自開発した監視カメラや不正行動の検知技術を活用し、店舗の防犯対策を担ってきました。これまで当社のカメラで捉えた不正行動は数万件を超えており、それらのデータを分析しています。

CIA 長岡社長プロフィール
中村: 不正行為の対策は、店舗運営において避けては通れない問題です。これらを強化する店舗は増えているのでしょうか。

長岡: 間違いなく増えています。多くの店舗が監視カメラや出入口の防犯ゲート、万引きGメンの配備を強化しております。セルフレジ導入店舗が増えたことで、犯行エリアや手口なども複雑化しています。もはや「人件費削減のためには多少の被害は仕方ない」という認識が店舗運営で一般的になっていますね。

 なぜなら原因不明のロス金額(不明ロス)は一次被害だけでなく、店舗や地域の治安悪化、一般生活者へ不公平感を与え、企業イメージを悪化させるなどさまざまな二次被害をもたらします。とはいえ、監視カメラを隙間なく設置していけばコストはかさみますし、その映像をチェックする人件費もかかります。実際は監視カメラの映像をチェックできず、事案発生後の警察対応などに使用するくらいとなっています。

中村: それだけのコストをかけながら、不正行為による被害は現在も深刻ですよね。

長岡: 実際の被害を見ると、来店者への防犯対策だけでは足りないことも分かります。というのも、内部不正者による不明ロスも多く、CIAの調査では内部不正者の8割は従業員であるということが分かっています。また、内部不正者の97%は勤務先店舗で犯行に及んだというデータも出ています。

内部不正者、犯行現場の内訳
内部不正者、犯行現場の内訳(CIA調べ)

中村: つまり外向きの防犯対策だけでは通用しないということですね。そんな中、CIAはどのような方法で店舗の防犯に貢献しているのでしょうか。

長岡: 不正行為の抑止、防止に力を入れています。具体的には、独自開発した監視カメラを店舗に設置することで、不正行為そのものを映像として確実に捉えられるようになっています。不正を行った人物が再度不正を行う目的で来店した際、顔認証で検知して自動で音声を流したり、店員にリアルタイムで通知したりなどの対応をしています。

 この通知により、店員は対象者に声かけをします。声かけといっても「いらっしゃいませ」や「何かお探しですか」といった何気ないものです。これでも不正行為の抑止になります。

 CIAは、サーベイランスセンターにて、店舗の映像分析を行っており、常に店長や防犯担当者と連携をとり、不正行為に関する映像分析サポートを行っています。仮に店舗で内部不正をしようとする従業員がいた場合も、大きな抑止効果が期待できます。

 すでに成果も出ており、全国展開する大手小売事業者を対象とした実証実験では、従来の不明ロスの金額を平均で7割削減しました。また当社独自の防犯システムは内部の不正現場を捉える機能も備えており、内向き外向きの両方で有効に働いています。

防犯対策のコストが、そのままリテールメディアなどの攻めのコストに

中村: CIAとIdeinは2023年3月に提携し、エッジAIプラットフォームと防犯プラットフォームをかけ合わせることで防犯性の高いソリューションを提供していくことになりました。長岡さんはこの提携により、どのような展開を考えていますか。

長岡: 従来、防犯ソリューションの導入は「守り」の投資になってました。これを両社の技術により、同じようなコスト感で店舗が「攻め」と「守り」の投資を両立できるようにすることです。

 今後、リテールメディアなどに挑戦する店舗は多いと思います。当然、ディスプレイやサイネージ、スピーカーへの設備投資は進むでしょう。これらは売り上げを見据えた「攻め」の投資です。

 一方、CIAの防犯対策は店員の声かけが大きな役割を果たしていましたが、エッジAIの技術を活用することで、声かけ以外にディスプレイの表示やスピーカーの音声を使った抑止が可能になると考えています。不正行為をする人は敏感な心理状態にあり、わずかな変化にも気を配っています。映像や音声を活用すれば抑止の引き出しが増える他、声かけに比べて店員や他の来店者の安全にもつながります。

 こちらは「守り」の投資であり、ディスプレイやスピーカーへの投資が攻め・守りの両方につながるのです。

中村: エッジAIカメラに不正検出技術を搭載することで、不正の予兆を検知した際、カメラ内のAIが自動で連携するディスプレイ・スピーカーに指示を出すといったことも視野に入れられるでしょう。

 あわせて、このエッジAIカメラはマーケティングに必要な人流データの分析も行えます。マーケティングと防犯を1つの枠組みに入れて投資できるのは大きな意味があると考えています。

長岡: そもそも店舗来店者の99%は不正とは無縁です。その人たちの膨大なデータもカメラに収めているわけで、これを防犯のみにしか活用しないのは機会損失です。

中村: もう1つは、エッジAIによって防犯システムのコストダウンを図れることです。エッジAIは必要最低限の情報のみを送信するため通信コストが減少します。その結果、防犯システムを低コストで大規模・多拠点に展開することが可能になります。将来的には小規模店舗でも導入しやすくなります。

長岡: こうしたコストダウンと攻め・守りの投資の両立により、最初に話した「一定の被害は経費の一部」というコスト構造を既に変えられる時代になっています。

プラットフォームを掛け合わせ、安心・安全な社会インフラに

長岡: こういったシステムを取り入れる企業が少しずつ増えており、今後は蓄積される特徴データや防犯ノウハウを、同じ問題を抱える企業間で共有できるセキュアなプラットフォームをつくることも想定しています。もちろん、これも個人のプライバシーを侵さないことが前提です。

中村: 例えば、不正行為の予兆行動や不正の生じるリスクが高い場所・条件などのデータを共有し、検知を早めたりAIの精度を継続に改善したりといったプラットフォームが考えられます。エッジで映像を処理し、匿名化された情報だけを扱うことで個人のプライバシー侵害のリスクを減らしつつ、データの共同利用を実現できると考えています。

防犯ソリューションの描く未来

長岡: その他にも、異なる技術が重なることで新しい発見が数多く生まれると思います。例えばある店舗では当社のシステムを3年間運用し、1000件ほどの万引きを検知しました。その店舗には150台以上のカメラがありましたが、ほとんどの万引きを検知したのはわずか3台のカメラだったのです。不正の手口にはそれほどの“傾向”があるため、異なる技術を組み合わせることで、その傾向の深掘りや新たな発見ができると考えています。

中村: 企業の裏側を支える防犯プラットフォームと、コストを抑えて高速でさまざまな処理を行うエッジAIプラットフォームが合わさったことにも意義を感じます。何より、異なるプラットフォームをつないだからこそ、今までにないマーケティングと防犯の両立を見据えたインフラ構想にたどり着いたのではないでしょうか。

 今回の例に限らず、得意分野を持つパートナー同士が掛け合わさることで自分たちの強みを最大限生かした形で社会実装していけるのだと思います。

本記事から考えるエッジAIの活用ポイント

  1. 店内告知に使用するディスプレイなどを使い、安全な不正抑止を可能にする
  2. 高度な不正防止システムのコストを抑え、大規模展開できる
  3. マーケティングと防犯への投資を、1つの枠組みで考えられる
  4. やがて検知データを共有できれば、社会インフラになり得る

Idein株式会社 CEO 中村 晃一

 

著者プロフィール
Idein株式会社 CEO 中村 晃一(なかむら こういち)

1984年生まれ、岩手県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻後期博士課程にて、スーパーコンピュータのための最適化コンパイラ技術を研究。AI/IoT技術を利用して物理世界をデータ化する事業にチャレンジしたいという思いから、大学を中退し2015年にIdeinを設立。18年には半導体大手の英ARM社から「ARM Innovator」に日本人(個人)として初めて選出された。プログラミング・ものづくりと数学や物理などの学問が好き。趣味でジャズピアノをひく。

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