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人のいる全ての空間を「資産」に変える! リテール業界の飛躍を後押しするエッジAIとは

現場をデータ化する

(本記事は当社CEO中村が『ITmediaビジネスオンライン(リテール大革命)』に寄稿し、2023年1月27日に掲載された記事を再編集したものになります。)

 リテール業界はエッジAIを使ったIoTによって飛躍的に進化できる──当社CEOの中村はそう語る。

 数年前のAIブームは沈静化したように見えるが、ここにきて再び注目が集まっている。なぜなら以前はさまざまなハードルがあってできなかったことが、技術の進歩で可能になったからだ。そのトリガーとなる技術が「エッジAI」である。

 エッジAIとは、エッジデバイスでAI処理を行い、クラウドとの通信を極力減らす仕組みのこと。IdeinはエッジAIのプラットフォームを提供していて国内シェアはNo.1(※)。中村は「この技術で人の動きを解析することで、店舗や工場など人が介在する現場(空間)全てを資産に変えられる」と話す。一体どういうことなのか。そもそもなぜ、エッジAIによってIoTが進化できるのか中村氏に語ってもらった(以下、中村の寄稿)。

※デロイト トーマツ ミック経済研究所 『エッジAIコンピューティング市場の実態と将来展望 2021年度版』 「エッジAIプラットフォームのベンダシェア(台数)」による

リテール業の収益性改善をもたらす「エッジAI」という技術

 現在、日本のみならず世界的規模でリテール業界に大きな変化が訪れようとしています。ファミリーマートが進める「FamilyMartVision(ファミリーマートビジョン)」などのリテールメディアや、無人店舗を想像する読者も多いでしょう。

 どちらも、リテール業界にとって重要な課題である「店舗当たりの収益性改善」を解決する取り組みで、各社がこぞって既存ビジネスの生産性向上や新規ビジネス創出に取り組んでいます。また同時に、労働人口の減少などによる人手不足も顕著であり、より効率的なオペレーションが求められています。

ファミリーマートビジョン
ファミマが設置を進めるデジタルサイネージ「FamilyMartVision(ファミリーマートビジョン)」
(ファミリーマートプレスリリースより)

 これらの課題を解決する手段として注目されているのが、エッジAIを使ったIoTデータ収集とその活用です。リテールメディアや無人店舗にも欠かせない技術で、人がいる空間をデータ化し、よりよい施策の立案を迅速に行えるようになります。エッジAIの登場で、データを活用した新しいサービスの提供に向けた土台が整ってきました。

 具体的には、センサーやカメラ、マイクといったIoTデバイスを使い、人の動きや音声を匿名化してデータ化。データ解析の知見がたまったら、実店舗の売上改善につなげられるだけではなく、新事業を創出して外部に売ることで、今まで以上の利益を生むことも見据えられるのです。

 なお、ここでいう「人がいる空間」とは、店舗はもちろん工場や人が行き交う施設、交通機関なども含まれます。データを活用したビジネス改善はWebサービスでは当然のように行われていますが、リアル産業におけるデータ活用はまだまだ開拓されておらず、大きなチャンスがあるといえます。

 とはいえ、IoTデバイスで人の動きや音声をデータ化し、AIが解析して最適化するという話は、数年前のAIブームやそのさらに前から言われ続けてきました。しかし、当時はそういった活用が定着しませんでした。かつて広がらなかったものが、なぜ再び注目されているのでしょうか。そのカギを握るのがエッジAI技術の進化です。

エッジAI技術の台頭

 本連載では、リテール市場でどのような変化が起こっているかを具体的に解説していきます。まずは前提となる基礎知識として、エッジAIが注目された社会的背景とその特長について簡単に説明します。

 近年、あらゆる産業において現場の可視化や高度な自動化を求めてビッグデータの取得ニーズが拡大し、その活用方法は高度化しています。この流れはもはや不可逆と言ってよいでしょう。その結果、常に大量のデータを送付し、必要に応じた処理をするデータセンターへの負担が集中してしまいます。加えてAIを活用する場合はその負担がより重くなります。

データセンターの消費電力予測データセンターの消費電力予測
(2030年には世界のデータセンターで消費される電力の半分以上がAI用途であると予測されている)

 また、自動運転車や工場で稼働するロボットなどの実用化により、安全を確保できるよう通信ネットワークのタイムラグを極めて小さく抑える技術も求められるようになりました。さらに、各国で進む個人情報の収集に対する規制強化により、データをクラウドに収集すること自体が難しくなっています。
ビッグデータ取得+活用難易度の高まり
ビッグデータ取得+活用難易度の高まり
 
 このような需要に応えるために発展したのがエッジAIです。エッジデバイスにAIを搭載して情報の分析や学習、推論までをデバイス内や付近のサーバで行う技術です。
 

クラウドを使ったAIとエッジAIは何が違うの?

 エッジAIと比較されるのが、クラウドを使ったAIです。デバイスで集めたデータを一度クラウド上のデータセンターに送りAIで解析する方式で、数年前のAIブーム時にはクラウドを使ったAIが主流でした。しかし、いくつかの課題が生じ普及が進まなかったといえます。

 その課題の1つがコストです。カメラで取得した映像といった大量データをクラウドに送り続けると、通信コストやサーバへの負荷がかさみます。例えば、大規模な商業施設や工場などで複数のデバイスを数千台単位で稼働させる場合は莫大なコストが発生してしまいます。

 もう一つの大きな課題は個人情報の取り扱いです。2010年代後半、欧州を中心に個人情報をクラウドに集約することへの規制が強まりました。

 これらの課題を踏まえ、近年はエッジAIを使った方式に注目が集まってきました。エッジAIでは、AIがデバイス側で処理を行うのでクラウドとの通信は少なく済みます。また個人情報もデバイス内で処理するので、クラウドに送信されるのは最低限必要な情報のみです。

クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの違い
データセンターで処理されるクラウドコンピューティングとは異なり、
エッジコンピューティングでは端末のデバイスや付近のサーバで分散して実行される

 一方、エッジAIではデバイス側で複雑な処理を行う都合上、デバイスに高性能なプロセッサを搭載する必要があります。しかしここ数年で安価で高品質なプロセッサが普及したことにより、この課題は解決されつつあります。

 いずれにせよ、世の中のニーズと技術の進化がかみ合ったことで、エッジAIを使ってコストを抑えながら人のデータを解析するシステムが実装可能になってきました。つまり、ユニットエコノミクス(1顧客あたりの採算性)が向上してきたのです。

この技術によってリテール業界はどう飛躍できるのか

 では、エッジAIによってリテール業界では何が可能になるのでしょうか。端的にいうと、売り上げアップや収益性の改善が挙げられます。また、そこでたまった知見を外部に売ることで新たな収益源を生むことも考えられます。

 どのようにそれを実現するのか。顧客層分析、リテールメディア、対面接客という3つのパターンについて具体的な道筋を解説します。

 まず顧客層分析ですが、エッジAIを搭載したカメラで、施設などへ訪れる人の属性や人流を解析し、テナントレイアウトや賃料の最適化につなげます。例えば、施設内で特に人が訪れやすい“一等地”を明らかにして賃料に反映する、あるいは人流データを基に売り上げ向上が見込めるレイアウトを組むなどがあるでしょう。

 その他、店舗で新商品を発売した際の来訪者の反応や、販促イベントを実施した前後の顧客の変化などをデータで具体的に解析できるようになります。また、データに基づいた意思決定により確度の高い需要予測が立てられるため、商品の廃棄といった無駄を大幅に削減でき、次のフィードバックにつながります。

 こうして自店舗の収益を改善するのは第一歩であり、将来的にはその知見を基にテナントレイアウトの提案をAIが自動で行えるかもしれません。そこまでいくとこの仕組み自体を外部に販売するビジネスモデルも見えてきます。

エッジAIをリテール市場で用いることで期待できる効果エッジAIをリテール市場で用いることで期待できる効果

 次に、リテールメディアでの活用を解説します。店舗への来客を対象にした広告ビジネスによる売り上げアップが考えられます。サイネージにエッジAIカメラを併設することで、表示し広告の視聴率を計測できる他、見ている人の年齢や性別の推定値を得ることもできます。このデータを解析することで視聴率に合わせた広告料の設定も可能でしょう。また、どんな広告が効果的か分かれば、その解析を基に店内商品をアピールし、売り上げ向上につなげる形も想定できます。

 将来的にはサイネージを使った広告のABテストなどを実施し、広告のクリエイティブや商品開発にフィードバックする事も可能だと考えます。これらの取り組みも、知見を外部に販売することが可能でしょう。

 対面接客についてはエッジAIマイクの活用が有効です。顧客とのやり取りを録音・解析することでクレーム対策の一助になるでしょう。現場では、顧客との“言った言わない”のトラブルにスタッフの労力が割かれているケースもあり、それらを減らすことは生産性の向上につながります。将来的には接客中の音声を解析して、接客スクリプトの改善などにつなげることも想定されます。これも収益性改善に関連する取り組みです。

 繰り返しになりますが、こういったエッジAIによる解析はリテールに限らず、人のいる空間であれば全て横展開が可能です。公共交通機関、不動産、イベント施設などのあらゆる空間で人の動きを解析して得た知見を活用できるのです。

 本連載では、今後も1つ1つの事例を紹介しながら、成果やノウハウ、エッジAI技術の可能性を解説していきます。

Idein株式会社 CEO 中村 晃一

 

著者プロフィール
Idein株式会社 CEO 中村 晃一(なかむら こういち)

1984年生まれ、岩手県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻後期博士課程にて、スーパーコンピュータのための最適化コンパイラ技術を研究。AI/IoT技術を利用して物理世界をデータ化する事業にチャレンジしたいという思いから、大学を中退し2015年にIdeinを設立。18年には半導体大手の英ARM社から「ARM Innovator」に日本人(個人)として初めて選出された。プログラミング・ものづくりと数学や物理などの学問が好き。趣味でジャズピアノをひく。

 

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