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DX時代を切り開く--エッジAIの可能性とは(前編)

DX時代を切り開くエッジAIの可能性についてのブログ

(本記事は当社CEO中村がZDNet Japanに寄稿し、2022年8月26日に掲載された記事を再編集したものになります。)

 人工知能(AI)分野に何かしら関わっている方々は、近年「エッジAI」という言葉を聞く機会が増えてきているかもしれない。例えば、さまざまな先進技術に対する関心や普及度を示した図であるGartnerのハイプサイクルの2021年版では、最も関心の高いAIテクノロジーとしてエッジAIが位置付けられていた。

 この見込み(下図参照)が正しいとすれば、2021年から今頃にかけて幻滅期を迎えており、これから社会の理解が進み普及に向けて動いていくだろうと思われる。筆者もエッジAI PaaSを提供する事業を行っており、2022年に入ってから実ビジネスで利用される例が増えてきている。いよいよ実証段階を超えてこれから社会実装が進んでいくのだろうという実感を持っている。

swg-hype-cycle-for-artficial-intelligence-2021ガートナーの「AIのハイプサイクル:2021年」(出典:ガートナージャパン)

 本記事では、このように今後重要度が増すと考えられるエッジAIというテクノロジーについて2回に分けて解説する。前編ではエッジAIそのものと需要が高まっている背景について説明し、後編では実際のビジネスにおける利用事例などを紹介する。

エッジAIとは

 まず、そもそもエッジAIとは何かを説明したい。とはいっても、エッジAIという用語について明確な定義が存在するわけではないので、一般にこういう趣旨で用いられることが多いであろうという筆者の私見である点をご容赦いただきたい。

 エッジAIとは画像解析・音声解析・自然言語解析などにおけるAI処理を、ネットワークの「エッジ(データセンター側から見て端)」つまりユーザーや端末の近くで処理するシステム構成やそのための技術を指す。これと対比されるのが、AI処理をデータセンターに集約して行う方式で、「クラウドAI」などと呼ばれる場合がある。

 エッジAIの「エッジ」とはエッジコンピューティングから派生した言葉だと思われるが、エッジコンピューティングのエッジが具体的に何を指すかに関しては、さまざまな立場からの用語が乱立している状況である。例えば、次の3つである。

  1. データセンターの手前に分散して配置されるクラウドエッジ
  2. モバイル通信網の途中(基地局など)に配置されるモバイルエッジ
  3. スマートフォン、監視カメラ、IoT端末などのエッジデバイス

 これらのいずれにおいても、特定の用途に限らずさまざまなアプリケーションを実行できるように進化させていくという動向がある。詳しくは、アカマイ・テクノロジーズの以下の連載をぜひご覧いただきたい。

 さて、エッジAIに関しても具体的な方式はさまざまあり得るが、恐らく本稿執筆時点ではエッジデバイス上でAIを実行する方式を指してエッジAIと呼ぶ場面が多いと思われる。本記事でも以降断りなくエッジAIと言った場合、エッジデバイス上で実行するケースを指すものとする。

edge-computing

エッジAIへの関心が高まっている背景

 近年エッジAIへの関心が高まっている背景には大きく3つの理由があると言える。

(1)データセンターや通信インフラの負荷低減
(2)超低遅延処理の需要の高まり
(3)プライバシー保護の関心の高まりと規制強化

 元々、エッジコンピューティングという方式が登場した主な理由は(1)と(2)であった。つまり計算機システム全体としての効率向上や性能向上のためという工学的な理由である。一方で、エッジAIに関しては個人情報を直接的に処理する場面が多いため(3)の点も欠かせない。これらについて順番に説明していく。

mobility-report(出典:Ericsson Mobility Report, November 2017)

 

データセンターや通信インフラの負荷低減

 インターネットに接続するデバイス(コネクテッドデバイス)の数は年々急増している。スマートフォン、PC、タブレットなどの非IoTデバイス群は世界的な普及率が高まってきたので増加は緩やかであるが、スマートホームデバイス、コネクテッドカー、IoTセンサー群などのIoTデバイスが今後は急速に増加していく。IoT Analyticsによるレポートでは、2025年にはアクティブなIoTデバイスが300億台に達し、非IoTデバイスの3倍もの数になると予想されている。

iot and non-iot active device connections

 デバイス数の増加に伴って、それをデータセンターや通信インフラの負荷が増加する。特にAI用途で使用されるIoTデバイス群は、画像・音声やセンサーデータなど常時処理するようなものが多いと考えられ、通信インフラにより大きな負荷をかける要因となる。また、近年でAIと言うとDeep Learning(深層学習)技術が利用されることが多いが、この技術は計算するために必要な計算機の処理能力が非常に高いという特徴もある。一般的なウェブサービスなどの提供に使用されるようなサーバーでは性能が足らず、高性能なGPUやAI処理用専用のプロセッサーを備えたサーバーが利用される。

 以上のように、AI/IoTという両分野の成長によりデータセンターや通信インフラの負荷増加に拍車がかかることが見込まれる。計算資源を分散しできるだけデータの生じる場所の近くで計算することで通信量を抑えることができるエッジAIはこの問題を軽減できる可能性があり注目されているわけである。

超低遅延処理の需要の高まり

 計算処理が低遅延というのは、計算を開始してから結果が出てくるまでの待ち時間が短いということである。超低遅延処理というのは、その待ち時間が極めて短いということであり、具体的にどの程度かというのはこれまた立場により1秒以下を指したり、1ミリ秒を指したりまちまちであるが、可能な限り計算結果を早く得たいという需要が高まっている。

 エッジAIが利用される典型的な例として、自動運転車について考えてみよう。自動運転車はカメラやLiDAR(測距技術の一種)などのセンサー情報を基に制御するわけであるが、この一連の流れは数ミリ秒の間に行わなければならない。センサー情報をデータセンターに送信し、結果を受信するというやり方では物理的な距離がある分どうしても通信時間がかかってしまうため難しい。自動運転ほど極端な低遅延が求められることはなくとも、例えば、製造ラインにおける検査工程の自動化のための画像解析AIなどでも一定の低遅延処理が求められるだろう。

 通信による遅延を物理的な限界よりも短くしようとしたら、処理をする現場にサーバーを近づけるほかないため、これもエッジコンピューティングの必要性を高めている。特に数ミリ秒という極めて小さな遅延時間を実現しようと思ったら、本稿執筆時点ではデバイスそのものにAIを搭載するエッジAIが必須であるといえるだろう。今後、第5世代移動通信システム(5G)のインフラ網の整備が進めば、1ミリ秒以内での超低遅延通信が可能となるので車両そのものではなく近くのエッジサーバーに一部処理を移すというということも可能になるかもしれない。

プライバシー保護の関心の高まりと規制強化

 プライバシー保護に対する世の中の関心は年々高まっており、各国の規制強化も進んでいる。特に2018年から施行されている欧州の「一般データ保護規則」(GDPR)は、規制の厳しいものとして有名である。日本でも2022年4月に「改正個人情報保護法」が施行され整備が進んでいる。このような時代背景から、個人情報をむやみに収集するリスクが高まっており、ユーザーの所有している端末内で処理してしまうエッジAIの需要が高まっている。

 有名な事例としてGoogleによる「Topics」と呼ばれる技術がある。より精度の高いターゲティング広告配信を実現するためには、ユーザーの属性情報やウェブサービスなどにおける行動情報を解析する必要があるが、従来はそのためにCookieなどを使用してユーザーの行動履歴を収集、解析していた。しかし、この情報は特定個人と強くひも付いており、プライバシー侵害の度合いが高いと批判されている。実際にCookieは今後廃止される予定になっている。

 そこでTopicsでは個人が特定できるような情報を収集せずに、ユーザーの端末の中で解析して解析後の必要最小限の情報のみを収集する仕組みとなっている。これもエッジAIの一種と言えるだろう。

エッジAIを支えるテクノロジー

 上記のように関心と必要性の高まっているエッジAIであるが、この方式を実現するためにはどのような技術が必要となるだろうか。まず、これまでデータセンターのサーバーで動作していたようなAIを、エッジデバイスの中で動作させる必要がある。通常エッジデバイスは性能面でデータセンター内のサーバーよりはるかに劣る上、AIの処理には多量の計算を必要とするので、非力なデバイスでAIを動作させるソフトウェア技術や性能を向上させる専用チップなどのハードウェア技術が重要となる。

 また、サーバー内のソフトウェアでは比較的やりやすい、ソフトウェアのデプロイ・アップデート・監視などが、末端のデバイスに対しては難しくなるため、ソフトウェアの遠隔配信や監視などの技術も必要となってくる。

エッジAIが実現するDX

 エッジAI技術が普及するようになると、どういった新しいビジネスや既存業務プロセスの変革が起きるようになるのだろうか。エッジAIというのはあくまでもAI技術を利用したシステムの実現方式に過ぎないので、全く新しいコンセプトの何かができるようになるというわけではないが、これまでAIの可能性としてうたわれていた応用の幾つかがエッジAI技術の進歩によるコストダウン・プライバシー保護・低遅延化などによって現実的に可能になるだろう。

 自動運転車などはエッジAIの必要な分かりやすい応用分野であるが、社会に普及するまでにはまだ数年を要するだろう。その手前では画像認識や音声認識などのAI技術を使用した物理世界を計測・認識することによるデータ収集と利用/活用、自動化、新しいビジネスが開拓されると思われる。これらは過去数年のAIブームの時に、さまざまな試みがなされているが、こと物理世界の計測になると上に挙げた課題が顕著になる。コストやプライバシーなどの課題をクリアできずに実証実験止まりになっているプロジェクトが多く存在するだろう。エッジAI技術が成熟してくると、この時に検討されたさまざまな試みが再始動するだろう。

 物理世界の計測・認識と大袈裟な言い方をしているが、つまりは人間の目や耳で行っているような認識を置き換え、さらに効率良く行い得るということで、エッジAIの切り開く可能性は非常に大きいと考えている。次回後編では、より具体的な例を取り上げてエッジAIの可能性について紹介したい。

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